360日の「軍資金」と、家族で始めた再スタート
3月に入籍し、僕たちは郊外の静かな街で、同棲3年目という落ち着いた新婚生活を送っていました。溜まっていた有給休暇をすべて消化し、7月いっぱいで設計事務所を退職。首のヘルニア、80kgまでリバウンドした身体。ボロボロの状態で手にしたのは、ハローワークの「就職困難者」枠による360日の失業保険でした。
「これで1年間、お金の心配をせずに『次』への準備ができる」
それは、人生を立て直すための貴重な軍資金でした。二人分の生活を支える主として、この1年は絶対に無駄にできない。僕は、再就職を有利にするための「戦略」を静かに練り始めました。
9月の出会い。新しい家族「コザクラインコ」
失業の手続きが落ち着いた9月のある日。僕は妻と、観賞用の金魚を買いにペットショップへ出かけました。そこで偶然、目が合ったのがコザクラインコの雛でした。
もともとインコが好きで飼っていた経験があった僕は、その愛くるしさに心を奪われました。妻にとっても、きっと日々の癒やしになる。「雛は餌やりに手間がかかるけれど、無職の今なら、つきっきりで育てられる」。今しかない、絶好の機会だ。そう確信して、僕たちは新しい家族を迎えました。雛に餌をやり、成長を見守る時間は、ささくれ立っていた僕の心を穏やかに整えてくれました。
二人で登録していた「地活」を、自習室にする
一方で、僕は自分を律するための「拠点」も確保していました。以前から、妻が将来的に通える場所があればいいなと思い、二人で一緒に登録しに行っていた地域活動支援センター(地活)です。もともとは妻のために用意していた居場所でしたが、今の僕にとっても、そこは絶好の「自習室」になりました。
正直、葛藤はありました。「地活に通うことが、企業への再就職の実績(エビデンス)として本当に認められるのか?」という疑念。でも、もし試験に落ちてしまったら? その時、ただ家にいた事実はどう評価される? 落ちた時の「保険」として、規則正しく通所している実績を作っておく。僕は淡々と、地活へ通い続けました。
楽しい交流と、手応えのない試験
地活に行けば、仲間との会話がある。それは純粋に「楽しい」時間でもありました。午前中、インコの世話を終えてから地活へ行き、集中して勉強する。午後に人が増えてくれば、誰かの悩みや世間話に耳を傾ける。就労移行での経験もあり、僕は自然と「聞き役」をこなしていました。
でも、頭の片隅には常に焦りもありました。迎えた2月の国家試験。自己採点をしてみても正解がよくわからず、正直、手応えは全くありませんでした。「……よし、ダメだった時のために、もう仕事探しを始めよう」。試験が終わった瞬間、僕は合格を期待するよりも先に、次の現実的な一歩(求職活動)へと意識を切り替えていました。
「あ、受かってた」――静かな逆転劇
合格発表の日、パソコンの画面で番号を確認しましたが……ない。古い受験票と見間違えていることにも気づかず、不合格を確信して数日が過ぎた頃、自宅のポストに一通の封筒が届きました。
「落ちたはずなのに、なんか分厚いな……?」
開封してみると、そこには「合格通知」と「登録の手引き」。慌てて今年度の受験票を確認すると、正真正銘、僕の番号がありました。
「……あ、受かってた」
隣にいた妻に、僕はボソッとそう伝えました。「よかったね」と笑う妻の顔と、肩に止まったインコの鳴き声。ようやく実感が湧いてきました。同時に「また福祉の世界に戻るのか……」という複雑な思いもありましたが、資格という最強の武器を手にした今、僕の足取りはかつてないほど確かなものになっていました。
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